国際税務

移転価格税制

企業のグローバル化に伴い、国境を越えての税金の問題、いわゆる国際税務は複雑化する一方です。本日は国際税務のうち、移転価格税制(Transfer Pricing)について解説します。
 
移転価格税制の対象になるのは、日本法人で国外に拠点がある場合となります。
・国外に50%以上の資本関係のある法人がある場合
・国外支店(または本店)がある場合 等
 
そもそも移転価格税制ですが、単なる価格の話ではありません。一言で言うと「多国籍会社グループ内での二国間以上での所得の配布割合」についての税制かとご理解ください。一言で言ってしまうと余計に分かり辛くなったかと思いますが、以下の例をご参照ください。
 
例:
A社(日本企業)は香港に子会社B社(工場)を有し、B社で生産した製品をB社からA社に輸出後にA社が日本で販売を行う。
※計算を簡単にするため、法人税の実効税率は日本で30%、香港で15%とします。
 
パターン1
B社が1,000円で作った製品をA社に2,000円で売り、A社が顧客に3,000円で売る場合
A社が日本で払う税金:(3,000円-2,000円)×30%=300円
B社が香港で払う税金:(2,000円-1,000円)×15%=150円
パターン1の合計の税金:450円
 
パターン2
B社が1,000円で作った製品をA社に3,000円で売り、A社が顧客に3,000円で売る場合
A社が日本で払う税金:(3,000円-3,000円)×30%=0円
B社が香港で払う税金:(3,000円-1,000円)×15%=300円
パターン2の合計の税金:300円
 
上記の例の場合、同じ製品を作って販売しているにも関わらず、トータルで支払う税金がパターン2の方が小さくなっています。これは、A社とB社がグループ会社であるため、A社とB社の間の取引価格は自由に決めることが可能ですが、取引価格を調整することにより、税率の高い国の所得を減少させ、税率の低い国の所得を増加させることで、不当に税金負担を少なくする租税回避が行えてしまうためです。
このように、取引価格を調整することによる租税回避を防ぎたいのが「移転価格税制」です。
では、トータルの税金がいくらになるように取引価格を調整するのが良いかというと、ここで「二国間での税金の取り合い」の問題が出てきます。
パターン2の場合、日本の税金は0円で、香港が300円です。この場合、香港の税務当局は自国の税金が十分多くもらえているので、何も言ってきません。一方で日本の税務当局は移転価格調査において、意義を唱えてくることになります。日本の当局が本来はパターン1のような価格設定にすべきだと言って、追加でパターン1の税額を追徴課税してきた場合、納税者は日本にはパターン1の300円を払って、香港にはパターン2の300円を払い、トータル600円払うことになり、国際的な二重課税が生じてしまいます。この二重課税が移転価格税制の怖いところです。
また、当局がこの価格であるべきと言ってくる金額の基準となるのが「独立企業間価格」と呼ばれているものです。つまり、取引価格を独立企業間価格にしておくことで、当局からの指摘を予防することが出来ます。
独立企業間価格とは、グループ会社ではない独立した企業同士の取引の場合に、通常設定される価格のことです。パターン2では、A社が、最終顧客に3,000円で売れるものを3,000円で仕入れており、利益がゼロになる取引となってしまっております。これは普通の企業なら設定しない価格であるため、日本当局から指摘を受けるリスクが高くなります。
 
では、実際に独立企業間価格を決定(A社とB社の儲けの配分をどうするか)する場合に、どうすればいいかというと、いくつかの方法が国際的な移転価格ガイドラインであるOECDガイドラインで定められています。
日本の法人税法もOECDガイドラインに沿った規定がなされており、以下の方法が挙げられています。
・独立価格比準法(CUP法)
・再販売価格基準法(RP法)
・原価基準法(CP法)
・上記3つに準ずる方法等(取引単位営業利益法(TNMM法)、残余利益分割法(RPS法)など)
 
上記のいずれかの方法で調整した取引価格を用いることで、日本当局からも香港当局からも指摘を受けない水準の所得配分を行うことで、移転価格課税のリスクを低減できることとなります。
それぞれの独立企業間価格算定方法の詳細や、移転価格税制対策のご相談は弊社にお問い合わせください。

2022/5/30
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