節税

試験研究費税額控除(研究開発税制)の落とし穴

製造業などの法人では、毎年一定の試験研究費を計上している法人が多々あると思います。試験研究を行う場合、費用計上した試験研究費の額に応じて、税額控除を適用できるため、多くの会社で試験研究費による税額控除を受けていると思います。
本日は試験研究費税額控除の思わぬ落とし穴について解説したいと思います。
 
■試験研究費税額控除の概要
内国法人の試験研究を活発にする目的で制定されている税額控除であり、以下の金額を各事業年度の法人税額から控除できる規定です。
 
税額控除額:試験研究費の額×2%~14%(中小企業の場合12%~17%)
 
上記の2%~14%のように控除率の幅がありますが、これは直近3年間の平均より試験研究費の額が増えていれば、高い控除率になり、減っていれば低い控除率になる計算式となっております(試験研究を活発に行うほど、税制上も優遇する規定)。
 
■落とし穴① 適用要件(大法人限定)
大企業の場合、無条件で試験研究費税額控除を受けられるわけではなく、以下のいずれかの要件を満たさないと試験研究費税額控除が受けられません。
①当期所得が前年所得以下であること
②当期の継続雇用者給与等支給額(前期と当期の2年間ずっと働いている人に支払う給与)が前年以上であること
③当期の国内設備投資額が、当期減価償却費総額の30%を超えること
 
上記3つの要件の1つでも満たせば、研究開発税制の適用が可能です。上記3つを簡単に言うと、①昨年より儲かっていないならOK、儲かっているなら②給与水準を上げるか③設備投資を活発に行うかのどちらかを行うことで要件充足となります。
 
■落とし穴② 控除限度額(全法人共通)
控除率が10%の場合、1億円の試験研究費を計上すれば、1000万円の税額控除が受けられるわけですが、法人税額が少ないと、この1,000万円全額の控除が受けられないケースがあります。
税額控除限度額=法人税額×25%(場合によっては40%)
 
従って、年間の法人税額が2000万円の法人であれば、この年に試験研究費を1億円計上しても、500万円までしか税額控除を受けられず、残りの500万円は控除できないこととなります。またこの限度超過額は翌年に繰り越せるわけではないため、完全に取りこぼしてしまうことになります。
上記のようなケースの場合、緊急性のない試験研究であれば、翌期以降に行うことで、今年と来年との通算で受けられる税額控除の金額が飛躍的に大きくなります。
節税プランニングを検討される際は税理士へご相談されることが良いと考えます。
 
■落とし穴③ 企業再編
控除率について、試験研究費が過去3年より増えていれば、控除率が高くなる(税額控除が増えて有利になる)ことを上記で記載しましたが、企業再編を行う場合には注意が必要です。
 
例えばA社が新しくB社を新設分割により設立した場合を考えます。
A社の過去3年の平均試験研究費が1億円としたときに、分割後もA社の過去3年の平均試験研究費は1億円のままです。
B社については、設立事業年度において過去年度が存在しませんが、分割による設立の場合、A社の実績を引き継ぐため、B社も過去3年の平均試験研究費が1億円の扱いとなります。
この場合、A社・B社のグループで見ると、過去3年の平均試験研究費の合計が2億円になってしまい、控除率の計算上、不利になってしまうケースがあります。
 
しかしながら分割の場合には、分割後2月以内に一定の届出を行うことで、A社実績のダブルカウントを防ぎ、A社・B社合計の過去実績を1億円にすることが可能です。この届出を行うか行わないかで数億円規模の影響が出るケースもあるため、企業再編などの特殊な取引を行う場合は、事前に税理士に相談されると良いかと考えます。
 
■まとめ
・試験研究を行っている場合、税額控除が適用できる
・税額控除の適用要件には要注意
・控除限度額に達してしまう場合は研究日程の再調整も要検討
 
いかがでしたでしょうか。節税のためにビジネス上の方針・スケジュールを変更するケースは多くないかもしれませんが、税額控除への影響があることを念頭においておくと、意思決定の時に役立つかもしれないので、頭の片隅に置いて頂けると幸いです。

2022/4/25
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